starposの日記

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アニメ「東のエデン」感想

東のエデンは哲学とエンターテイメントがなかなかのバランスで配合された逸品.個人的にはエンターテイメント性をもう少し抑えても良いと思うけど,収益のためにはそれもアリだと思う.テレビアニメが11話と,続編の映画が前編後編の2本.昨日見てきたのは映画の後編だ.封切2日目の朝一のテアトル新宿は意外と混んででびっくりした.

監督は神山健治.攻殻機動隊を原作に対してかなり魅力的な作品に仕上げた人だ.私が一つだけオススメのアニメを挙げろと言われたら間違いなく攻殻機動隊を推す.攻殻機動隊は未来の技術を駆使して統治機構に蠢く悪と闘う物語だったが,東のエデンは現在が舞台.もちろん人間らしい AI がでてきたり,ちょっと非現実的なハッキング技術で繰り広げられる情報戦など,特に IT に関しては未来を取り入れているが,物語の大筋にはあまり関係ない.手っ取り早く物語を進展させるための魔法のようなものだと思えば良い.

この作品の主題は

  • この国を良くするにはどうすれば良いか?

だ.昨今のニート増加問題や,しがらみが多くてうまく動かない政治システムは物語の中でも大きく取り上げられる.

この問題への解決を半ば強制され,魔法を使うことを許されたプレイヤー達はそれぞれの考えで,試行錯誤する者もいれば明快な結論を持って動く者もおり,対立しながら与えられた魔法を奮う.その混乱に人々は巻き込まれる.物語の結果として,明快な答えは提示されない.それは未来に,視聴者に委ねられる.

ただ,未来に繋がるいくつかの考え方は提示される.ちょっとうろ覚えだが,こんな感じ.

  • どうやってサービスを亨受するかばかりを考えるお金を使う側に立つんじゃなくて,どうやって良いサービスを提供してお金をもらうかを考えた方が幸せになれるんじゃないか
  • あんたと俺は,同じ方向を向いていると思うんだけど,あんたのやり方には,愛がない

語られるメッセージは若者に希望を与える.アトウのじいさんがクライマックスで放つセリフは際立つ.ちょっと長いセリフで早口だったので,はっきりと覚えているわけではないのだが,

  • この国を支えてきた者は,この国を憂い,必死に働き,きれいなままでうまく立ち振舞うことなく汚れ地にまみれた名もなき民衆の中にこそ存在したのか

という感じだったと思う.かなり実際のセリフとは違う気がするが.とにかく,このときじいさんは何かを悟り,年寄りと若者が一つの合意に至る.

この国をよくするには,誰かがなにかデカいことをやってくれるのを待つのではなく,この国を良くしたいと思っている自分自身こそが,少しずつ頑張っていくしかないんだと視聴者は悟るはずだ.少なくとも私はそのようなメッセージをこの作品から受け取った.「国」という言葉にアレルギーを感じてしまうアレな方は,「世界」でも「人類」でも構わないけれど.

世の中はいつの間にか動乱の時代に突入している.呆けている若者が多いのは平和で豊かな証拠だが,それはいつまでも続くわけではない.いつの時代も,動乱期には若者のエネルギーが世の中を動かしてきた.年寄達は力をふるいその流れに逆らおうともがく者もいれば,若者に期待をし,流れを後押ししようとする者もいる.流れに逆らったものは,それが経験値の高い年寄りだろうが権力をいくらもっていようが,いつか淘汰される.それはいつの時代でも同じだと思う.

若者よ,未来への希望を胸に持て.自分自身で未来を切り開く覚悟を持て.自分自身で自分を守り,大切な人達を守れるだけの力を付けろ.これは自身への叱咤激励でもある.頑張ろう.


蛇足

昨今のアニメは金払いの良い「大きいお兄さん」達に媚びることに重きを置いた作品が多すぎるが,東のエデンはそれには属さないし,メッセージ性は初期のジブリアニメを越えると思う.私は前者があまり好きではないが,そのような作品達が存在して,それで大きいお兄さんが日々を生きるためのささやかな癒しとなり,経済が回るなら,それはそれで良いと思う.ただ,人間はだれしも,何故生きるかを自分自身に問い,その答えを自分で見つけないと幸せに生きていくのは難しい.東のエデンはそれを見つけるための一つの助けになるのではないだろうか,他の素晴らしい物語と同様に.